激闘!2つの赤いスピリッツ!
「日本電動車椅子サッカー選手権大会」に新しい歴史を刻んだのは、SFCデルティーズでした。そして今度は、まっさらな本の1ページ目に名を刻む戦いが始まります。初代王者となるのは、Yokohama Crackers(神奈川県)か、Red Eagles兵庫(兵庫県)か。2つの赤い巨星が、うなりをたてて激突します!
MAX 10 決勝
Yokohama Crackers(神奈川県)vs Red Eagles兵庫(兵庫県)
W杯代表選考でチーム内が揺れ動く中 、チームの立て直しを図ってきたYokohama Crackers。昨年の日本選手権では2回戦敗退という屈辱を味わい、その影を引きずり続けた1年間。1年前の悔しさに鬱々としたチームの姿を私も遠巻きに見ていました。全てを清算するチャンスがやってきたのです。
Red Eagles兵庫は昨年準優勝を果たしたものの、チームの大黒柱10#有田選手が競技転向し、チームは新たな改革を迫られました。その渦中にあって、日本代表としての経験や自信をアメリカの地から持ち帰った19#内海選手が大きな存在に。新しいRed Eagles兵庫を見せるために、2大会連続の決勝に挑みます。
決勝戦前のセレモニーで、次々と名前を読み上げられるRed Eagles兵庫の選手たち。「背番号10番、有田正行選手」の名前が読み上げられた瞬間、観客席から拍手が。それの音は、兵庫でネット中継を通してチームを見守っていた10#有田選手とそのご家族の心にも、強く響いたに違いありません。
前半
キックオフはYokohama Crackers。Yokohama Crackersの先発メンバーは変わらず。Red Eagles兵庫は4#上月選手が先発復帰です。
試合開始直後、Yokohama Crackersが相手陣内に入り込み、波状攻撃。ドリブルで持ち込む7#三上選手と9#紺野選手が相手守備陣を翻弄します。
しかしそれをしのぎ切ったRed Eagles兵庫19#内海選手のセットプレイからリスタート。ゴール間近にいた77#井上選手がボールを中に折り返し。
10#竹田選手が跳ね返したところに走りこんできたのは、キッカーの19#内海選手でした。
一発を警戒して引き気味だった7#三上選手とGK10#竹田選手が交錯した間隙を縫って、19#内海選手の放ったシュートが滑り込み、ゴール!開始3分の出来事でした。沸き立つベンチ!
優勝に一歩近づく圧巻のゴールに、力強い雄叫びをあげる19#内海選手!Red Eagles兵庫、先制です!ハイタッチ(ロータッチ?)を交わす監督。
19#内海選手は、ガッツポーズをあげながら配置に戻ります。
しかし、決勝の怖さをよく知っている選手たちは、すぐに険しい表情に。
優勢に試合を進めるかと思われましたが、一瞬の隙を差されビハインドを負ったYokohama Crackers。しかしまだ試合は始まったばかり。失点を意に介さず、キックオフからぐいぐいボールを持ち込む7#三上選手。
競り合いの中でルーズになったボールを、9#紺野選手が再びキープ。一瞬の膠着状態ののち、ゴールエリアへ折り返します。
託されたパスの先には…17#永岡選手!シュートを阻止しにいく19#内海選手よりも一瞬早く触れたボールは、ゴールへ!
19#内海選手の前をわずかにかすめ、ボールはゴールへと消えていきます。
失点からわずか2分、試合を振り出しに戻すYokohama Crackers!選手たちは喜びを爆発させます。
Yokohama Crackers応援団も一段とボルテージが上がります!!
あっという間に追いつかれたRed Eagles兵庫。Yokohama Crackersの攻勢はなお続きます。しかしここをなんとかしのぎ、追加点を許しません。
反撃に転じる19#内海選手。深く相手陣地に切りこみ、落としたボールを77#井上選手がシュートしようとしますが、惜しくもここは2on1で得点機を逸します。
前半12分にはセットプレーから強烈なシュートを立て続けに打ち込むも、Yokohama Crackers守備陣に跳ね返されます。19#内海選手を中心に、なおも押し込むRed Eagles兵庫!
しかし、次第にまたYokohoma Crackersのペースに。17#永岡選手がボールを奪取し、7#三上、9#紺野選手へと繋いでいきます。Red Eagles兵庫は、敵陣に入る回数も減り、徐々に攻撃も散発的になっていきます。
そして前半15分、カウンター攻撃を仕掛けたYokohama Crackersに、Red Eagles兵庫は2on1の反則でFKを許してしまいます。キッカーは7#三上選手。
逆サイドには17#永岡選手が、ゴールポスト間際に構えます。ゴール前には19#内海、8#中村選手が縦列でブロックを固めます。
7#三上選手のボールは17#永岡選手の元へ。落ち着いてゴールへと逸らす17#永岡選手。
ボールは19#内海、8#井上選手のわずかな隙間を狙って滑って行き、はじき返そうとした19#内海選手のバンパーに当たって、ゴールに吸い込まれていきました。しばし呆然といった様子のRed Eagles兵庫。Yokohama Crackersが逆転に成功します!
前半は残り4分。あまり時間が残されていません。
焦りもあってか、手元が狂い始めるRed Eagles兵庫。その動揺を見逃さないYokohama Crakersは、畳み掛けるように攻勢を強めます。巧みなパスワークでRed Eagles兵庫の守備陣を切り裂いていく3人。
17#永岡選手のCKがやや精彩を欠き、救われた感もあるRed Eagles兵庫ですが、結局攻撃に転じることができませんでした。
前半はこのままYokohama Crackersのペースでゲームが進み、終了のホイッスル。2-1でYokofhama Crakersのリードで折り返します。
優位に進んだ前半でしたが、実はこの時、Yokohama Crackersのチーム状況は悪化していました。
準決勝で破損し、応急処置を施していた7#三上選手の背もたれのシャフトが、ここに来て限界を超えてしまったのです。ハーフタイムをフルに使って、修理を急ぐチームスタッフたち。結局後半開始には間に合わず、6#清水選手がピンチヒッターに。
そして17#永岡選手は、この日体調不良を押しての強行出場。準決勝からすでに色濃く出ていた疲労の表情でしたが、残り20分、果たして保つのか。Yokohama Crackersは満身創痍の状況で後半に挑みます。
一方、前半で逆転を許したRed Eagles兵庫は巻き返しを図ります。残された20分に全てをかけ、監督が一人一人を激励。
前半はあまりうまくボールに絡んでいけなかった4#上月選手、後半に向けて気持ちを強めていきます
キャプテン15#舩倉選手も高家技のチャンスを狙います。
後半
Red Eagles兵庫は開始早々から77#井上選手が鋭く攻め込んでいきます。しかし、17#永岡選手が巧みにボールを奪取し、フィニッシュまで持っていかせません。
そのままカウンターで攻め上がるも、それを許さない4#上月選手。後半は4#上月選手の守備がチームを助けるシーンが増えました。
4#上月選手とともに攻撃を担ったのは77#木村選手。ベンチからの「前から!前から!」の声に、プレスも熱くなります。
後半8分、鋭いパスカットを見せた7#三上選手。海外は当たり前のようにパスカットを戦術の中に織り込んできます。この時7#三上選手の頭の隅に、W杯の試合が意識されていたことでしょう。
19#内海選手が守備に比重を置いた後半、Yokohama Crakersの攻め込む時間が増えます。守備をしつつ、攻撃の隙を伺う4#上月選手。時間は刻々と過ぎていきます。
しかしYokohama Crakersの勢いは止まりません。攻めながらも相手エリアでボールを保持し、時間を上手く使います。
流動的に役割を変えていくYokohama Crakers。10#竹田選手が前に出れば17#永岡選手、7#三上選手が守備に戻ります。
前線深くまで攻め込む9#紺野選手。圧力をかけ続けます。
なかなかゴールエリアから出ることができない19#内海選手、攻撃力を完全に奪われてしまいました。
選手もスタッフもサポーターも、ただ一心にボールの行方を見守ります。刻々とすぎる時間。
果てしなく続くデッドヒート!!しかし決定的なシーンが作れないRed Eagles兵庫!
そして…斎藤主審のホイッスルが響き渡ります。
瞬間、喜びを炸裂させるメンバーたち!!ついに頂点に立ちました!! 試合終了!勝ったのはYokohama Crackers! 初代チャンピオン誕生の瞬間です!!スタンドも大狂乱!
W杯で共に戦った戦友の腕を取り、高々と掲げる19#内海選手。賞賛とリスペクトに満ちた、電動車椅子サッカーにふさわしい素晴らしい一瞬です。
19#内海選手は悔しさと安堵が混ざった寂しげな笑みを浮かべながら、歓喜の輪から離れ、準決勝で戦った奈良クラブビクトリーロードのメンバーが待つコート脇へ。彼らの思いも背負って臨んだ決勝は、勝利で締めくくることができませんでした。
感極まるYokohama Crackers応援団長。彼もまた、喉の調子が芳しくない中声を枯らして2日間声援を送り続け、選手たちと一緒に戦っていた「同志」でした。
歓喜のるつぼと化した応援席に向かって、選手たちはゆっくりと歩み寄ります。若きキャプテン9#紺野選手が、サポーター席に向かって感謝の言葉を叫ぶと、赤い集団が一斉に立ち上がり、選手たちを出迎えました。
選手一人一人に向けて、高らかにチャントを捧げ続けるサポーターたち。4年もの間、この瞬間を待ち続けていました。その感情が爆発する瞬間です。
そして後ろからは、善戦の限りを尽くしたRed Eagles兵庫のメンバーが。Yokohama Crackers応援団のエールがこだまします。「レッド!イーグルス!レッド!イーグルス!」暖かなエールに表情が緩み、選手やスタッフから笑顔がこぼれます。
Yokohama Crackers、4年ぶり3回目の戴冠。メンバーの中からは「優勝は難しいと思っていた」という言葉が漏れるほどチーム事情は混迷を極めていました。そんな中での優勝は、彼らを再び一つにしました。
慌ただしく閉会式の設営が進み、緊張感から解放された各チームのスタッフや選手たちがアリーナに再び集まってきます。2日間の長きにわたって開催された日本電動車椅子サッカー選手権大会。全ての試合が終了しました。「日本電動車椅子サッカー選手権大会 POWERFUL6」23代チャンピオンはSFCデルティーズ(静岡県)、新設された「パワーチェアフットボール選手権大会 MAX10」初代 チャンピオンはYokohama Crackers(神奈川県)。
電動車椅子サッカー新時代を占う今大会は、可能性に満ちた幕切れとなりました。
10につづく
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