ボールを蹴って手話を学ぼう!
これも少し前のお話。今年一番と思うほどの寒さに見舞われた2月の事です。
フットサルをしながら手話を学ぶフットサルスクール「手話deフットサル」をご存知でしょうか。健聴、聴覚障がいを問わず、老若男女誰でも参加できるスクールです。2011年の11月にスタートして以来「手話サル」の愛称で親しまれ、多くの支持者を集めました。
その「手話deフットサル」が、丸7年を迎えようかというタイミングで一旦終了すると聞き、急遽会場である渋谷のアディダスフットボールパークへと足を運びました。
渋谷のど真ん中、寒風吹き付けるデパート屋上のコートには、ギャラリーも含め総勢40名超が集まり、かなりの盛り上がり。開催決定してからたった数日でキャンセル待ち状態になった、その人気ぶりが伺えます。
コート上にはたくさんの参加者が。そしてその中心に「手話deフットサル」主宰の植松隼人さん(写真右)と泉洋史さん(写真左)がいました。
植松さんは元デフフットサル男子日本代表選手で現デフサッカー男子日本代表監督。2017年7月のデフリンピック・サムスン大会まで日本代表チームを率いた、中山剛・前男子日本代表監督の後を受け継ぎ就任しました。
一方、泉さんは千葉県リーグ所属のインクルーシブフットサルチーム「バルドラール浦安デフィオ(以下デフィオ)」の監督兼選手。大学時代からの知り合いだった植松さんとの「手話deフットサル」で、アシスタント活動の中で手話を覚え、そして「デフィオ」の創設につながっていきます。
そして二人は「デフィオ」で共に戦うチームメイトでもあります(「デフィオ」については別の機会)。
聴覚障がい者と健聴者の「しがらみ」を無くした「手話deフットサル」
この日の参加者のうち、聴覚障がい者は7割ほど。「手話を学ぶ」というよりは、交流を目的に参加している方が多くいました。
誤解されやすいのですが、全ての聴覚障がい者が手話を使いこなせるわけではありません。例えば後天的な聴覚障がい者の中には、手話を使えない方も多くいます。また口話(口の動きを読み取る、あるいは口の動きをつかって伝達する)教育を受けた方の中にも、手話を教わらなかった聴覚障がい者が数多くいらっしゃいます。
「手話deフットサル」は、そのような社会活動において孤立しがちな人へのコミュニティとしても、重要な役割を担っていました。
正直なことを書くと、パラキートも聴覚障がい者同士が手話だけで会話をしてる時、何を話しているかわからなくて不安になることがあります。当然、聴覚障がい者の方も同じことを感じるでしょう。
しかし、パラキートが以前「手話deフットサル」に参加したときも、たどたどしい手話や身振り手振りで交流を図ろう私に対し、手話が間違っていれば教えてくれましたし、聞き取りにくければ懸命に理解しようとする雰囲気がありました。
「手話deフットサル」は、そんな両者の柵を取り払うことのできる場でもあるのです。
終始笑い声に包まれたレッスン
さて、最後のレッスンが始まりました!参加者はコートの端に並び、植松さんが手話を示したら一斉にダッシュ!「赤」の手話なら赤のコーン、「黄」の手話なら黄色のコーンを挟んでパス交換し、反対のラインへ向かいます。一番遅いのは誰だー!
「ヨーイ、スタートで始めますからねー…って、まだだってば!」
説明が終わると、間髪入れずにスタート!他の参加者と交錯したり、ボールがとんでもないところへ行ったり。素早い判断力と技術力、コミュニケーション力が試されます。
「違うコーン通過しちゃだめだよー!」「なにやっとーん!」植松さんのツッコミに参加者は大爆笑。今日が最後、とは微塵も感じないほどの通常営業ぶりに、ギャラリーも爆笑です。
最後は、手話で指示を出した色のコーンを回収し、反対のラインへ移動。シンプルなレッスンですが、楽しみながら手話を覚えることができます。
笑いに包まれるゲーム会
そして、お待ちかねのゲーム会へ。この日は人数も多いので、1ゴールしたら即終了のサバイバル(?)参加者も本気にならないはずがありません。
ゲーム会には1つ重要なルールがあります。それは「ゴールを決めたあと、チーム全員とハイタッチしないと得点にならない」というルール。初対面同士でも連帯感が強まる仕掛けですね。
この日は6チームくらいでゲームを回していたため、審判の泉さんも厳しめジャッジ。イキイキした顔でPKスポットを指差しています。合計で3本くらいPKを取っていたような…。
でもおかげで得点がたくさん生まれ、みんなでハイタッチ!
フットサル好きが大勢集まるイベントなだけに、試合内容もなかなかのハイレベルです。ファーストプレイで勝負が決まってしまう試合も。
試合開始直後のファーストシュートを後逸&即試合終了。
「なにやっとーん!」
立ち上がれない…。メンタルダメージはかなりのもののようで…。
そしてこの人も参戦です。さすが現役選手だけあってプレイもキレキレ。
ゴールを決めた参加者と熱い抱擁!濃い空間が生まれています!濃すぎる!
手話deフットサル、グランドフィナーレ
試合がひと段落して、ちょっと振り返りタイム。7年間の「手話deフットサル」の思い出を振り返ります。
お題は「手話deフットサルで1番印象に残っていることは?」
爆笑エピソードからほっこりエピソードまで飛び出すなか、参加者の一人は「手話deフットサル」の最中に骨折し、植松さんに車で自宅まで送ってもらったというエピソードを話してくれました。
着ぐるみを着ての仮装フットサル、手話deフットサルが縁で交際を始めた方も。いろんなエピソードがたくさん詰まった7年間だったんですね。その充実ぶりは、参加者の大きな笑い声からもすぐにうかがい知ることができました。
泉さんも感慨深げに話していました。彼もまた、手話deフットサルの歴史を築いてきました。
思い出話はつきませんが、楽しい時間も終わりがやってきます。残る時間、名残惜しそうにボールを蹴り続ける参加者達。
そして静かに腕を組み、その姿を感慨深げに見つめる植松さん。
…と思ったら、参加者のお子様を預かっていたんですねー。これも「手話deフットサル」らしさ。
ついに終了の時間がやってきました。締めの挨拶をする二人。最後の最後まで、笑いを取ることを忘れませんでした。
「7年間、ありがとうございました!」
二人が頭をさげると参加者一同も、深々とお辞儀。そして拍手の渦。7年間親しまれた手話deフットサルは、こうして終わりを告げました。
「寒いよー」「早くー」ガタガタ震えながらの集合写真。本当に最後まで爆笑の渦でした。
終了後のサプライズ。感謝の気持ちを込めて、参加者から植松さんへプレゼントです。7年間の思い出が詰まったアルバムと、サッカーをモチーフにしたアクセサリー!
これには植松さんも驚き。感慨深げにアルバムを眺めます。
植松さんの教え子や同じ学校出身の方も多く参加していた「手話deフットサル」。7年間という時間の流れ以上のものが、そこには詰まっていたことでしょうね。
いつか誰かが新しい「手話deフットサル」を企画してほしい
打ち上げが終わり、一人会場に残る植松さんに「手話deフットサル」への思いについてお話を伺うことができました。
7年続けてきた「手話deフットサル」を終了しようと決めたきっかけはなんですか?の問いに「自分の役割は一通り果たしたと思っています。誰かがその人なりの「手話サルをまた企画して始めてくれたらいいなと思っています」と、植松さんは答えてくださいました。
植松さんは日本代表監督という立場を強く意識されているようでした。「今までは手話でのコミュニケーションをもっと広げたいと思っていました。(自分が代表監督になったので)代表活動に専念したいという思いもありますが、より指導者育成に力を入れたいと思うようになりました。」
「もちろん、手話サルもイベントなどでスポット開催することもありますよー。」と笑顔で話す植松さん。とはいえ、その明るい人柄に惹かれ集まった参加者の皆さんには、しばらくの間「手話サルロス」が続くでしょう。
そんな話をしている間に「手話deフットサル」の歴史を知る人物が合流。以前、ツンさんの課外授業でご一緒させていただいた手話通訳士、森本さんです。
大のサッカー好きの森本さんもまた「手話deフットサル」の趣旨に賛同し、初期の頃から参加者として関わり続けてきました。
この日は居酒屋も閉店間際で、森本さんからエピソードをを伺うことはあまりできませんでしたが、店の営業が終了した後も、森本さんと植松さんはプレゼントされたアルバムを懐かしそうに見ながら、思い出話にいつまでも花を咲かせていました。
様々な思いを詰め込んだ「手話deフットサル」はひとまずの終わりを迎えました。でも同時に、これは始まり。いつか誰かが、次の「手話deフットサル」を開催することでしょう。それはそう遠くないことかもしれません。
最後に記念写真を。一番左は植松さんとのお話の中で手話通訳をしてくださった、CPサッカーASユナイテッドの中村臣宏さん。中村さんありがとうございました!
そして植松さん&泉さん、7年間本当にお疲れ様でした!
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4月に開催された「第四回アジア太平洋ろう者サッカー選手権大会」で、植松監督率いるデフサッカー男子日本代表は見事準優勝を飾りました。もちろん狙うは優勝なので、悔しさの残る結果だったとは思いますが、世界と戦う植松ジャパンの初陣で、結果を残しました。そしてすでに、2021年のデフリンピックに向けて動きだしています。今後の植松ジャパンに期待!パラキートも引き続き応援していきたいと思います!
(了)
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