全てが決まる、大会二日目
10月29日、午前6時。
まだ日が昇って間もない薄暗い宿舎のロビーに、FC PORTのメンバーは集まっていました。一晩中降り続いた雨は、朝になっても一向に止む気配がなく、黒い雨雲がどんよりと垂れ込めています。
みんな遅くまで寝付けなかったのか、どことなく疲れている様子。時間通りにロビーに降りてこられなかった選手もいました。
落ち着かないのは佐藤監督も同じ。それもそのはず、大会は二日目を迎え、後半戦に突入。そして今日で全ての結果が決まるのですから。
そうでない方も約一名…。
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この日の第一試合は午前9時スタート。動きやすいように最小限の朝食を口にし、選手たちは二手に分かれ会場へと移動します。
会場へ向かう10分程度の道のり、車内には重苦しい空気が漂っていました。誰一人しゃべりません。
と、突然大音響でカーステレオが鳴り響きました。
「ひーとーにーやーさーしーくー、なーれたーとぉきー♪」
流れてきたのは、懐かしい“モンゴル800”の「あなたに」。そしておもむろに監督が大声で歌い始めます。
「ほら、ザキさん歌え歌え歌え」助手席に座っていた一回り以上年上のザキさんにも、容赦なく歌わせる監督。車内は大爆笑、そしてみんなで大合唱です。こうして、選手たちの緊張もほぐれていきました。
FC PORT一行は、この日も会場に一番乗り。昨日と同じ笑顔が選手たちにも戻ってきました。
「おはようございます!!!」
後からやってくる他チームの選手やスタッフたちへも大きな声で挨拶の声をかける選手たち。おとなしいメンバーの多いFC PORTにとって、大きな変化でした。
サポートスタッフの今井さんから手当を受ける監督。実は佐藤監督、愛媛に入る前の直前練習で重度の捻挫を起こし、大会初日から大声を張り上げたため喉はガラガラ、満身創痍でした。
午前8時すぎ。
チームはピッチ脇の練習スペースでウォーミングアップ。試合開始が近づくにつれ選手たちの口数も減り、その表情は再び緊張を帯び始めます。
今大会の大一番、対YARIMASSE大阪戦。強烈なシュートとハードな当たりはまさに「武闘派」。特に関西大会決勝でハットトリックを決めたエース、25#小林耕平選手が存在感を放ちます。
制限時間ぎりぎりまで、監督は戦術の理解に時間を割きました。繰り返し繰り返し、約束事を確認する作業。
そして、午前9:00。いよいよ運命の試合が始まる時間になりました。
初日に1敗し後がないYARIMASSE大阪は、死に物狂いで挑んでくるはず。自分たちを、仲間を信じて。円陣を解くと、選手たちはピッチに向かいました。
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グループA 第六試合 YARIMASSE大阪(大阪府)vs FC PORT(神奈川県)
前半
試合は、開始直後からお互いに激しいぶつかり合いました。ボールを奪ってはカウンター、それを奪い返してはまたカウンター。攻守めまぐるしく入れ替わります。
YARIMASSE大阪は、スペイン留学経験のある25#小林耕平選手の強烈なミドルシュートを武器に攻め立てます。
前半から壮絶な打ち合い。FC PORTはYARIMASSE大阪に何度か決定機を与えますが、選手身体を張って阻止します。しかし、YARIMASSE大阪には高いテクニックを持つ選手が何人もいます。
激しくぶつかり合い、謝るトビくん。小林選手は厳しいマークに何度も晒されました。
前半7分、YARIMASSE大阪の自陣深くから放たれた絶妙なロングパスは、FC PORTのゴール前にいた選手へ。1対1となったGKジンさんは、身体を投げ打ってシュートを弾き出しました。
お互いに激しく体をぶつけ合い、試合展開も粗くなります。お互いに一歩も引けない、文字通りの死闘でした。ディフェンスリーダーのムーチさんも、激しいチャージを受けます。
ソーシャルフットボールでは累積ファウル6回でPKが与えられます。激しくぶつかる相手のスタイルは、FC PORTにとって好都合。「累積ファウル、くるかもしれないぞ。意識しとけ」監督がささやきます。タイムアウトの時、監督が意識していたのはまさにそこでした。
その思惑は的中します。前半12分、YARIMASSE大阪が6度目のファールでFC PORTは第二PKを獲得。このPKは惜しくも外しますが、その2分後、再びチャンスが巡ってきました。
自陣から放り込まれたロングクロスに小林選手が反応し、FC PORTゴール前に猛突進。ジンさんと激しく交錯し、もんどり打って倒れ込みます。決死の攻撃でしたが、主審はこれをキーパーチャージと判断、再び相手ペナルティスポットを指差します。
蹴るのはやはりこの男、ハッシー。
放たれたシュートはGKの腹にあたり跳ね返りますが、それを見逃さなかったのはツーヨンでした。ボールがこぼれると信じて詰めたツーヨンが、ゴールにボールを押し込みます。先制点はFC PORT!そして、直後に前半終了の笛が。
前半を無失点で抑えることができなかったYARIMASSE大阪。一方のFC PORTベンチ前は歓喜に包まれます。ベンチにかけもどる選手を、チーム全員で出迎え。
「これは、いけるかもしれない」みんなが手応えを感じ始めた瞬間でした。この勢いに乗って、後半へ。再び円陣を組む選手たち。
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後半
1-0で折り返した後半、追い込まれたYARIMASSE大阪に焦りが。パスに乱れが出ます。そしてそのミスを逃さなかったFC PORTが早々に追加点。「ハッシーを男にする」と息巻いていたトビくんのアシストでした。
FC PORTはその1分後にも再び追加点を挙げ、3-0。
YARIMASSE大阪も素晴らしい闘志を見せます。ゴールをなぎ倒すほどの守備を見せた小林選手、負傷を抱えての出場とは思えないほどの気迫。
しかし後半開始5分で3失点は、YARIMASSE大阪にとっては想定外。それでも彼らは走ることをやめませんでした。
後半11分、1点を返して意地を見せるYARIMASSE大阪。その後も怒涛のようにFC PORT陣内へ攻め込みますが、残された時間は短すぎました。
ここでタイムアップの笛。気の遠くなる程長く感じられた試合が、今終わりました。
大会の一番のピークを乗り越えたFC PORTは、愛媛に入った時とは全く違うチームのように見えました。激しいなかにもリスペクトを忘れなかったYARIMASSE大阪。彼らの胸を借りて、FC PORTは大きく成長することができました。
この難所を乗り切った今のチームには、怖いものはありません。予選リーグはCitRungs Tossaとの最終戦を残すのみ。
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グループA 第七試合 リベルダージ北海道(北海道)vs CitRungs Tossa(高知県)
YARIMASSE大阪が1勝2敗で決勝進出の目が絶たれた今、決勝進出の可能性を残すリベルダージ北海道は、高知県のCitRungs Tossaと対戦。堅い守備を敷くCitRungs Tossaを2-0で退け、2勝1分でFC PORTと同勝ち点(得失点差2位)をキープです。
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グループA 第八試合 鳥取県選抜(鳥取県)vs YARIMASSE大阪(大阪府)
グループリーグ敗退が決まったYARIMASSE大阪でしたが、最終戦では持ち前の攻撃力を発揮。集中力を最後まで切らずことなく、堂々とした戦いぶりで4-0で鳥取県選抜を下し、意地を見せました。
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FC PORTは2勝1分の勝ち点7で、得失点差で首位。 次のCitrungs Tossa戦で勝利すれば、決勝進出は限りなく近づきます。
⑦へ続く
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