電動車椅子サッカー王国神奈川を代表する2大クラブの一つ
実に5チームもの電動車椅子サッカーチームを有する神奈川県。電動車椅子サッカー王国とも言える神奈川県を代表するチームが2つあります。赤をチームカラーとした「Yokohama Crackers」と、青をチームカラーとする「Yokohama Bay Dream」です。
2チームは年に一度開催される「電動車椅子サッカー日本選手権」に常に出場し続けており、特にYokohama Crackersは優勝を幾度も経験し日本代表選手も擁する国内屈指の強豪クラブです。
少し前のことになりますが、パラキートはその2大クラブの一つ、Yokohama Bay Dreamの練習見学にお邪魔させていただきました。
ここで、ちょっとだけYokohama Bay Dreamの歴史について触れておきましょう。
Yokohama CrakersとYokohama Bay Dreamは、元は「Yokohama ベイドリームPSC」という一つのチームとして活動していました(「Yokohama ベイドリーム」の「ベイ」は、彼らの活動拠点である障害者スポーツ文化センター「横浜ラポール」で活動するチームは、皆チーム名の頭に「横浜ベイ」をつけるという決まりがあったことにちなみます)。
しかし、第4回日本選手権優勝を経験したことを契機に、チーム内で「競技志向を追求するメンバー」と「レクリエーション志向のメンバー」が分かれ、袂を分かちます。競技志向派はのちのYokohama Crackers、そしてレクリエーション志向派はのちのYokohama Bay Dreamとなります。それはフランスW杯の翌年、1999年のことでした。
やがてチームメンバーの変遷やルール改正などの波の中で、レクリエーション志向だったYokohama Bay FCにも変化が生まれ、競技志向への転換へと踏み出します。
そして現在、日本選手権では時速10kmカテゴリでのエントリーを果たし、国内のトップクラブに並び立つチームへと変貌を遂げました。
穏やかな陽光差し込む体育館に、選手たちの活気に満ちた声が響く
この日お邪魔したのは、金沢文庫からほど近い、金沢養護学校体育館。
比較的コンパクトな体育館のなかで、菅野正道監督の穏やかかつ厳格な指導の元、選手たちは汗を流していました。この日は不在でいらっしゃいましたが、小甲初夏コーチとともに選手の指導に当たっています。
スラロームや前進・後退などの基本動作の確認に始まり、ドリブルなどの基礎練習がスタート。
その後、15メートルほど先に、ボール一個分(38.5cm)の間隔で置かれた2つのコーンの間を通すシュート練習。電動車椅子サッカーの選手は、この繊細なシュートを難なく決めてしまうのだから、毎回驚かされます。
この日は若い選手も見学に訪れていました。練習にも参加し、基礎的な動作やシュートを体験していました。
そういえば昨年の11月にYokohama Crackersの練習にお邪魔した際、私も止まっているボールを的に向けて正確に蹴る練習をしました。この時点では所属先を探している状況だったそうですが、彼も一歩一歩、選手への道を進んでいきます。
そして、休憩を挟んで実戦的な練習へ。チームを攻撃と守備の2つに分け、対戦形式での練習です。
現在、Yokohama Bay Dreamのメンバーは全部で8名。個性的な各メンバー同士、連携を取り合いながら、選手層の薄さをカバーします。
4#菅野正紀選手は、柔和な表情のなかに秘めた闘志を燃やす、頼れるチームのキャプテン。
今回練習見学にお誘いしてくださった、ストライカーナンバー9#加藤高明選手。「とにかく本番に弱い」と謙遜しますが、持ち前の体力を武器にピッチを駆け巡る副キャプテンです。
11#安田陸午選手は3年前に埼玉県のBLACK HAMERSから移籍。プレーでチームに落ち着きを与えます。
そしてチームの紅一点、20#木下絵里選手。GKポジションを主戦場とし、一番後ろからチームの戦況を見つめ、指示を出します。
10#高林貴将選手は競技歴7年。関東選抜候補に選出されたこともある名手です。エースの10番を身にまとい、冷静にチームメイトに指示を与えます。
コーチを兼任する6#中山佳孝選手。昨年の日本選手権で、Yokohama Crackers の竹田選手と競り合いを演じていたのは記憶に新しいところです。
15#木村俵太選手。多くを語らず、出場機会があれば雄弁なプレイでチームに貢献します。
チーム1の大声とHPでは紹介されている5#大滝肇選手。この日は穏やかな物腰で選手たちとポジションなどの確認をし合っていました。
練習中も絶えず声を出しながら息を合わせ、ズレが見つかれば都度修正。この時は5月に神奈川県電動車椅子サッカー大会を控えていた時期でもあり、練習とはいえかなりハードなコンタクトも厭わない気合の入りよう。チームの士気の高さが伺い知れます。
ボールが高く飛び跳ねるほどの強いシュートを放つ9#加藤選手。初めてYokohama Bay Dreamの試合を見た時、一番印象的だったのは彼の武器である強烈なミドルシュートでした。
物静かでおとなしい印象の選手たちが多いチームですが、時には互いに厳しく指摘し合う場面も。
特にチーム唯一の女性選手である20#木下選手は、強い想いを前面に出して、チームを鼓舞していました。
Yokohama Bay Dreamは、対話を大事にします。菅野監督は要所要所でプレイを止め、一人一人に細かな指示を出していきます。選手の言葉に耳を傾け、それを練習に取り入れていく柔軟性な姿勢が、チームの良い雰囲気を作り出しているようです。
練習の節目節目でしっかりとミーティング。
試合形式の練習でも、皆を集めて課題を指摘していきます。
監督が一方的に指示をするのではなく、選手からも対等に意見が出せる良い関係が築けているようです。
10#高林選手は、率先してポジショニングの問題点や各選手の動きについて意見を出していました。
熱を帯びた実践練習はその後1時間以上続きました。その間休憩は一度だけ。休憩を取るかと聞かれても、選手たちは練習を続けます。心地よい緊張感がファインダーを通して伝わってきます。
9月30〜1日の2日間にわたって、静岡のエコパアリーナで開催される「電動車椅子サッカー日本選手権大会」。この大会に照準を定めて、熱い練習が行われています。
今期は愛知、兵庫と遠方への遠征も積極的に行い、金沢ベストブラザーズ(石川県)、レッドイーグルス兵庫(兵庫県)といった強豪チームとのトレーニングマッチを重ねてきました。その先には「Yokohama Bay Dream」としての初優勝を見据えています。
baydream.net
今大会ではシード権を獲得し、決勝まで2試合という好条件に恵まれました。ただし、前回優勝の奈良クラブビクトリーロード(奈良)や、1月のマリノスカップで苦汁を飲まされたWings(岐阜)、そして先に練習試合を行った強豪2チームと当たる可能性もあり、一試合一試合が大勝負。
しかし、持ち味の連携と集中力が発揮できれば、今大会で旋風を巻き起こすかもしれません。
穏やかさの中に秘めた熱い想いを、是非試合を通して感じてください!
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Yokohama Bay Dreamは月に3〜4回、複数の拠点で練習を行っています。うち一回はYokohama Crackersとの合同練習。チーム練習とはまた違った迫力のある練習風景を見ることができます。ご興味がある方は是非、チームのHPを確認してお問い合わせの上見学へお越しください。
またチームは常時ボランティアスタッフを募集しています。練習会場の設営や練習補助を通して、電動車椅子サッカーを理解する良い機会かもしれません。詳しくは下記をご覧ください。
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(了)
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